もじさんぽ

絵本の読み聞かせと育児を楽しむ日記

未来の赤ちゃん向けIoTデバイスへ思いを馳せる〜排泄予知デバイス開発物語を読んだ感想〜

 最近買った本の「10分後にうんこが出ます:排泄予知デバイス開発物語」が面白かったので、それについて書いてみようと思います。

 

10分後にうんこが出ます: 排泄予知デバイス開発物語

10分後にうんこが出ます: 排泄予知デバイス開発物語

 

 

どんな本か

ざっくり言うと、ある日突然うんこを漏らしてしまった筆者が、排泄について考え、「うんこが出るタイミングを予知できれば漏らさなかった」というところへたどり着き、「DFree(ディーフリー:オムツ(Diapers)から自由になるという意)」というウェアラブルデバイスを開発するために、企業、メンバー集め、実験、資金調達をしていくノンフィクション奮闘物語です。

このDFreeという機械ですが、まだ実用化はされていません。本著の中にもありますが、介護施設などと実証実験を進めており、うんことおしっこのうち、まず予知が簡単であるおしっこ、すなわち排尿予知デバイスの商品化を2017年度内に行なっていく計画のようです。

会社の名前は、トリプルダブリューと言って、このDFreeの開発は国の助成事業にも採用され、大手ベンチャーキャピタルやiPhoneの生産ラインを持っている台湾企業のホンハイからも出資を得るなど、今軌道に乗ってきた企業です。

 

テンポが良くてあっという間に読了

アマゾンの評価も良かったので、手に取ってみましたが、読了した最初の「感想は読んでみて良かった」でした。筆者であり、この会社の経営者である中西さんの壮絶な「おもらし」体験から始まる怒涛の行動力。ベンチャーがいかにして立ち上げられ、軌道に乗っていくかという流れが非常にリアルです。

特に、名もないベンチャーにとって最も重要なことはメンバー集めと資金調達。特にハードウェアの世界は試作品でもなんでも「モノ」がないと話にならない世界であるにもかかわらず、初期の資金集めの段階では「モノ」が一切できていませんでした。

その中で、自分たちのおしりを使った過酷な実験を行い、限られた時間の中で結果をだし、「モノ」が現実に作れることを証明して見せ、ベンチャーキャピタルから実際にお金を調達して見せた、筆者を含む開発メンバーの勢いには脱帽です。

ワクワクが止まらず、あっという間に読み終えてしまいました。

 

理論上可能を実現する難しさ

本著を読んで、特に感じたのは「理論上可能なものを実現する難しさ」です。

 

お腹に超音波デバイスを当てて、腸内のウンコの量や位置を取得、得られたデータを分析して何分後にうんこが出るか予測する。

 

文字で書いてしまえばこれだけのことで、シンプルに見えます。

でも、今まで世界中の誰も作らなかった。それは作れなかったのかもしれません。とにかく中西さんが初めてその機構に関する特許を取り、実際に作ろうとしたということ。

 

昨今、「ビックデータの活用だ!」という話はどこにいっても聞きます。なので、排泄予知についてもなんとなく「できそうだ」という感覚は多くの人が持っているものでしょう。しかし、それを実際に試してみて、何度も実験して、カタチにできる人というのは本当に限られている。確固たる信念がないと最後まで到達できないものなんでしょうね。

 

排泄はQOL(クオリティーオブライフ)に関わるから強い

読んでいて確かになと感心したのは、排泄ケアという分野の市場価値の高さです。ぼくは今まで排泄という分野について全く何も考えてきませんでした。ちょっと切れ痔に泣くくらいです。人生で物心ついてからおもらしをしたことがないし、自分で完全に制御できるものとして当たり前だと感じていました。

しかし、歳をとると、その当たり前ができなくなってしまうんですね。介護で一番大変なのはシモのお世話と聞きます。これは介護する側も大変ですが、介護される側にとっても大変なことなんですね。今まで自分が当たり前のようにできていたことが、突然できなくなってしまう。しかもシモのお世話なんて自分の中の一番恥ずかしい部分であって、お世話してほしいなんて思っている人なんていません。でも自分じゃできない。

こんな葛藤を歳を取ればほとんどの人が経験することになります。自尊心を失い、自分に失望してしまう。自分に自信があった人ほど、ツライことだと思います。

改めて、排泄がちゃんとできるということがいかにすごいことなのかというのを考えさせられます。そして排泄が自力でできないということがいかにその人のQOL(クオリティーオブライフ:自分の人生がどれだけ人間らしく豊かであると感じるかを表す尺度の概念)を傷つけるか。

 

自力で排泄できなくなってしまって、落ち込んでいる人が、DFreeを手に取って排泄予知を元にトイレに向かい、自力で排泄できるようになる。どれだけ自信を取り戻せるでしょう。DFreeが製品化までこぎつけたらどれだけの人が救われるでしょう。

 

そう考えると、このDFreeはとてつもない潜在能力を秘めています。高齢社会に進む日本に限らず、「シモ」のことについて苦しんでいる世界中のあらゆる年齢層の人に受け入れられる可能性があります。

 

筆者の人を巻き込む力がすごい

別の観点で思ったこととして、筆者である中西さんの巻き込み力が凄まじいなと感じました。アメリカで大成する最近のイケイケ企業といえば経営者が凄腕エンジニアである場合が多いですよね。スティーブ・ジョブズにしろ、ビルゲイツにしろ、マークザッカーバーグにしろ、みんな自分がエンジニアで、自分で作ることができました。

筆者のすごいところは、自分が文系卒でハードウェアからは遠いところにいることを理解し、自分の役割を明確に「エンジニアじゃない」ところに置いている。できる人にやってもらおうと人に働きかけていきます。その行動力がすごい。

創業して間もない中で、払えるお金もなく、資金調達が成功するまでチームメンバーの人々は無給のボランティアで筆者を手伝います。それも優秀な人ばかり。

成功するかもわからない事業に200万円ぽんと出す友人、自らのお尻を使って体を張った実験を続ける友人、ハードウェアのスペシャリスト。筆者は奇跡と言いますが、それも筆者の行動力の賜物です。

 

育児業界にもいずれ来る

さて、話は変わってやっぱり僕として気になるのはこういったデバイスがいずれ育児業界にも来ないかということ。アスキーのインタビュー記事にこんなことが載っていました。

 

――赤ちゃんでも老人でも使えるか。
将来的にはそうしたい。おなかの幅が変わるだけだ。赤ちゃんの方がかえって精度は上がる。最初は成人向けにデザインしている。

 

 

赤ちゃんへ応用できたら救われるお母さん、お父さんがたくさんいると思います。今、生後2ヶ月の赤ちゃんを世話していますが、オムツの交換は1日7〜8回あります。新生児の頃だと10回以上替えるのが普通です。

一番苦労するのが外出中のウンチです。先日も車で帰省したところ、途中でウンチをしてしまって、やむなく車中でなんとか替えたことがありました。その時に限って大量で、服にも漏れていて車もちょっと汚れる惨事となりました。

もしも10分前に排泄が予知できていたら近くのトイレを探すこともできるであろうし、準備ができます。赤ちゃんがいつおしっこやウンチをするかわかっているということは親御さんにとってとてもありがたいことで、ストレスの大幅な軽減につながります。

 

赤ちゃん向けには排泄予知以外も望みたい

赤ちゃん向けデバイスで欲しい機能としてはもっと広範囲です。例えば、排泄排尿のタイミングがわかることに加えて、胃の内容物の量を超音波でキャッチして、今お腹が空いているのかがわかる。

言葉の発せない赤ちゃんが泣く原因の大部分は、「お腹すいた」「ウンチ・おしっこ」「構って欲しい」「眠い」くらいです。そのうち「お腹すいた」「ウンチ・おしっこ」だと断定することができれば、赤ちゃんの泣いている原因が生理的な欲求なのか、心理的な欲求なのか判断することができます。これはとても大きいことです。

つまり、赤ちゃん向けIoTデバイスは最終的に「赤ちゃんの泣いている原因がわかる」となって欲しいなと思います。

感覚的なものではありますけど、理論上は不可能ではないと思います。誰かがすでに実験していてもおかしくないですし。でも今出ている既存の赤ちゃん向けIoTデバイスを見る限り、そこまで達しているものはありません。

 

本著のように、誰かが苦しみながら、試行錯誤しながら生み出していくんだと思います。(僕にその力はありませんので、誰かが作ってくれるのを待ちます…)

 

またクラウドファンディングしたら投資したい 

 2015年にクラウドファンディングで資金調達をしていたそうで、目標額を達成していたんですね。その時は結局デバイスが完成しなかったので、全額返金されています。国の助成も得られているし、今後クラウドファンディングする必要はないかもしれませんが、もしもやるのであれば是非投資したいです。

 

この本を出版した目的もやはり資金調達が理由だと思います。この本を買ったことで、新しいデバイスの開発に貢献できるのであれば嬉しい限りです。